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 「コン、コン。」ドアをノックする音で、私は目を覚ました。目を覚ました瞬間には、本当にノックされたのか夢だったのかわからない。時計を見ると、夜中の2時を回っていた。「コン、コン。」やはり間違いない。誰かが部屋のドアをノックしているようだ。


 「こんな時間に、いったい誰だろう?」そう思いながらドアの前に行き、戸を開けずに尋ねた。「だれ?」すると、女性の声が返ってきた。「メオ」それを聞いて、ピンと来た。ナナプラザの1Fにあるレインボー1で踊っているメオだ。鍵を外してドアを開けると、そこにポツンとメオの姿があった。
 
 ふと遠くに人影が見えた。どうやらこのコンドミニアム(※日本で言うマンション)のガードマンのようだ。彼女をここまで連れてきたが、本当に私の知り合いかどうかを疑ったのだろう。まあ普通、疑って当然だろうなと思った。メオが部屋に入るのと同時に、ガードマンは立ち去った。
 
 メオはベッドの端に腰掛け、じっとこちらを見ている。「どうしたの?」と尋ねると、やっと口を開いた。今日は、お客さんがいなくて、それで尋ねてきたのだという。それにしても2時を回っている。明日もまた6時半には起きる予定なのに。かと言って追い返すのもかわいそうなので、私のベッドに一緒に寝ることを許した。
 
 朝、目覚まし時計が鳴るとすぐに起き、メオを起こした。「すぐに出かけるから、あなたも帰りなさい。」私はメオに、タクシー代として200バーツを渡すと、彼女が支度するのを待って部屋から追い出した。「何もしてないんだから、200バーツで十分だろう。」そう、考えていたのだ。
 
 
 数日後の深夜、また部屋のドアをノックする音で起こされた。またメオに違いない。今度はそう確信していた。ドアの前に立って「だれ?」と問うと、すぐに「メオ」という声が返ってきた。「また来たのか。しょうがないなあ。」私はメオを部屋の中に入れた。廊下にガードマンの姿はなかった。ガードマンも、彼女なら間違いないとわかったのだろう。
 
 部屋に入るとメオが言った。「お母さんが田舎から出てきているの。でも、今日はお客さんがいなくて、お金を稼げなかった。明日、お母さんが田舎に帰るのだけれど、あげるお金がないの。」鈍感な私も、さすがにメオの意図を察した。前回も、お金がほしくてやってきたのだ。
 
 「わかったよ。2,000バーツでいい?」そう尋ねると、メオはコクンとうなずいた。「しょうがないな」特に何をするわけでもなく、ただ隣で寝て帰るだけのメオ。それでも私は彼女に、2,000バーツをあげることにした。メオと私は、浅からぬ関係だったからだ。
 
 
 出会ったのは、やはりレインボー1だった。ロリコン趣味の私には、もってこいの顔とスタイル。私が気に入らないはずがなかった。何の迷いもなしに、すぐにペイバーした。少なくとも2~3回はペイバーしただろうか。彼女に飽きたわけではなかったが、それからしばらく店に行っていなかった。彼女が私の部屋にやってくるようになったのは、そんなころだった。
 
 それからメオは、毎週のように、いや3~4日に1回はやってくるようになった。決まって2時を回った時間だ。「今日も客がいなかったの?しょうがないなあ。」そう言いながら私は、まんざらでもなかった。自分を慕って通って来る女がいる。そんなことに優越感を感じていたのだ。
 
 
 数週間が立ったころ、ある日メオが私に言った。「お母さんが来ていて、明日、田舎に帰るんだけど、渡すお金がないの。どうしても1万バーツ渡したいんだけど、貸してくれない?」さすがの私も、二つ返事でOKとは言えなかった。「どうしてそんなに必要なの?」1万バーツの根拠を知りたかった。
 
 「田舎には弟もいるの。まだ学生なんだけど、学費が必要なの。それに、お母さんは病気持ちだから、病院へ通わなければいけないし。」「お父さんはどうしたの?」「お父さんはもう死んだの。だから田舎には、お母さんと弟が暮らしているの。」よどみなく話すメオの言葉に、私は疑うことを知らなかった。
 
 「そう、わかった。じゃあ2,000バーツは今夜のお代で、あと8,000バーツを貸してあげるよ。それで、いつ返すの?」「来月の4日が給料日だから、給料をもらったら返すわ。」「わかった。じゃあ4日に給料をもらった、またここにおいでね。」そう言って私は、メオに1万バーツを渡した。
 
 
 翌月の4日まで、たしか1週間以上あったと思う。でもその間、メオは1度も私の部屋にやって来なかった。そして4日も、メオは来なかった。夜中に何度も目を覚まし、ひょっとしたらドアの前にいるのではと思って、見に行ったりもした。でも、朝になってもメオはやってこなかった。
 
 次の日、私はレインボー1へ行った。メオの友達に、彼女の消息を尋ねようと思ったのだ。ひょっとしたら、何か事故にあったのではないだろうか?そんな不安も、少なからずあったからだ。席に座ってしばらくすると、歩いてきたメオと目が合った。なんだ、いるんじゃないか。
 
 すぐに彼女を呼んで、借金のことを尋ねた。「昨日、給料をもらったんでしょう?だったら返してよ。」お金が問題なのではない。彼女が約束を破ったことが気に入らなかったのだ。メオは言った。「お金はないのよ。給料はもらったけど、またすぐにお母さんにあげちゃったから。」
 
 
 その日は結局、メオをペイバーすることになってしまった。部屋に戻ると、私は再びお金の話をした。「なぜ、そんなにお金が必要なの?」どうにも納得できなかった。それに、そんなにお金をお母さんにあげてしまったら、自分が生活できないじゃないかと思った。メオは、「お母さんは病気だから、お金が必要なの。」と繰り返すばかりだった。
 
 翌朝になって、メオが言った。「また1万バーツ貸してくれない?」さらにお金を借りたいというメオの事情を、私は慮ってみた。詳細に説明はできないけれど、深い事情があるのかもしれない。助けられるものなら、何とか助けてあげたい。でも、こうやってお金を貸すことが、本当に彼女のためになるのだろうか?さまざまな想いが頭の中で交錯した。
 
 「わかった。いいよ。それで、いつ返すの?」メオは言った。「来月の給料日。そのときは絶対に返すから。」私はメオを信じることにした。その日のお代の2,000バーツに追加して、合計で1万2千バーツを彼女に渡した。「1万8千バーツの貸しだからね。」そう言うとメオは、嬉しそうにうなずいた。
 
 
 1週間過ぎても、メオは何も言って来なかった。私はまたレインボー1へ行くと、彼女の友達を呼んでメオのことを尋ねた。すると友だちは言った。「メオなら辞めて田舎に帰ったわよ。あなた、彼女にお金貸したでしょ?よーく考えないとダメよ。」私はそのとき初めて、メオに騙されたのだと思った。「ねえ、今度は私をペイバーしてよ。」そんなことを言われても、とてもそんな気分にはなれなかった。
 
 私はいったい、彼女の何を見ていたのだろうか。虫も殺さないような可愛らしさに、目が曇ってしまったのだろうか。いや、そんなことはない。彼女が私を騙すはずがない。きっと何か事情があったに違いない。少なくとも2週間くらいは、そんなことも考えた。自分の人を見る目がないことを、認めたくなかったのだろう。あれからメオはどうしているのか。誰もその消息を知らない。