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 ある日、ナナプラザのレインボー1で、見慣れない2人の女の子がいることに気づいた。ステージの後ろの方ではあったが、2人で派手に踊っている。だいたいレインボーなどの店では、女の子はあまり踊らない。踊っているとしても、上品に踊る。それなのに、この2人のダンスはどうだ。ソイカウボーイならふさわしいかもしれないと思うほど、下品な踊り方だった。


 2人はダンスが終わると、入り口に近い場所にやってきて踊ったり、話をして楽しんでいる。客を探すことより、自分たちで楽しむことに忙しそうだ。まるで小学生か中学生の頃の少女が、舞台から降りてきて戯れているような感じだ。
 
 
 興味を持った私は2人を呼び、ドリンクをご馳走した。名前をマイとプンと言った。友達同士で、3日前から働いていると言う。私はマイの、切れ長の目で笑う笑顔に魅了された。2人のダンスはどちらも下品だったが、マイの方が少しマシだった。歌舞伎で見得を切る時のように、首を振って踊る姿を見ていると心地良かった。
 
 2週間ほどたってレインボー1に行くと、プンの姿は見えなかった。マイに話を聞くと、指名されないからと言って辞めてしまったそうだ。わからなくもない。かわいそうだが、それが現実というものだ。私は、マイが残っていてくれたことが嬉しかった。
 
 
 しばらくすると、マイはだんだんと頭角を現してきた。やはり私が思った通りだ。美貌揃いのレインボー1の中でも、売れっ子の仲間入りをしていたのだ。もともとスリムなスタイルをしていたが、気のせいか最初に見た時よりもきれいになった気がした。
 
 それからマイは、まるで階段を登っていくかのように、美しくなっていった。メイクや髪型、衣装や持ち物にも、高級で洗練された雰囲気が漂う。入ったばかりのときのような、無邪気さを見ることはなくなった。売れっ子なので出勤も遅く、来たと思えばすぐにペイバーされる。私はマイのダンスを見たかったが、その望みが叶うことは少なくなっていった。
 
 マイのダンスのスタイルも、徐々に変わっていった。以前のような下品さはまったくない。上品だが、しっかりと踊る。自分の見事なプロポーションを、もっとも効果的にアピールするようなダンス。「さすがはマイ。私が見込んだだけのことはある。」私はペイバーしなかったが、いつもマイのことを誇らしく思っていた。
 
 
 普通の男を近づけない気品すら漂うマイだったが、けしてお高くとまっているわけではない。ちょっとでも話をすれば、そのフレンドリーさに心を奪われることだろう。高嶺の花のように見えながら、実に庶民的な性格。そのギャップが、またマイの魅力でもあった。
 
 ペイバーされて客と一緒に店の外に出るときでも、マイは私を見つけるとニコリと笑った。そんなに気にしなくていいのに。私はただ、ときどきドリンクをご馳走したり、チップをあげるだけの客だ。それに最近は、あまりに売れっ子になったために、ドリンクをご馳走する機会もない。
 
 
 またある日、私はレインボー1へ行った。そのころはマイが、レインボー1のトップに上り詰めて数ヶ月がたっていた。目の前を通り過ぎようとするマイを呼び止め、私はチップを渡した。「今日は誕生日だったね。おめでとう。」マイは嬉しそうに言った。「私の誕生日、覚えていてくれたの!?嬉しい!」
 
 マイは私に抱きつこうとしたが、私はそれをさせなかった。他の客が見ているからだ。マイはもう、私のマイではない。みんなのアイドルなのだから。「抱きついちゃいけないの?」残念そうな顔をするマイに、私は「ダメだよ」と優しく答えた。
 
 
 それから数ヶ月して、マイの姿を見ることはなくなった。辞めたのだろう。恋愛問題で悩んでいたことは、他の女の子から聞いて知っていた。ただ幸せになりたかった純朴なマイを、私は知っている。しかし売れっ子になり、寂しさから愛を求めすぎてしまったのかもしれない。
 
 彼女が今、どこで何をしているのか私は知らない。どんなに美しくなっても、私の脳裏に焼き付いているのは、仕事を始めたばかりの頃の純朴なマイの笑顔だ。かわいいマイに戻って、幸せになってくれれば良いと願っている。
 
 
 戯曲「ピグマリオン」を元に作られたという「マイ・フェア・レディ」。ブロードウェイのミュージカルとして有名だが、私にはオードリ・ヘップバーンが主演した映画の方がなじみがある。かわいかった田舎娘が成長して美しい貴婦人になる。でも、それを育てた教授は、貴婦人としてではなく、粗野で純粋な主人公の姿を見続けるのだ。
 
 別に私がマイを育てたわけではないし、発掘したわけでもない。ただ彼女のデビューに出会い、その後も愛しく思いながら見守ってきた。それだけのことだ。ただそれだけだけれど、私には忘れられないほど愛しい。だからマイには、幸せになってほしいと思うのだ。