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 他でも書いたが、私が本当にゴーゴーバーにハマッてしまったのは、ナナプラザの2Fにあるエンジェルウィッチという店のショーを見てからだ。初めて見て衝撃を受けてからというもの、それこそ毎日のように通った。ショーは10時くらいか始まるので、9:50くらいまでレインボー2などで時間をつぶし、いそいそと2Fに上がって行ったものだった。


 
 魅力的なショーダンサーがたくさんいた。その中の1人について、今回はお話しようと思う。以前、M女のことを書いたが、それとはまた違う女の子だ。その子の名は、オーと言う。痩せてはいないが、太ってもいない。笑顔のかわいらしい子だった。目をキラキラとさせ、愛くるしい口元をしていた。
 
 彼女が担当するのは、主に掃除ショーだった。実に単純なショーなのだが、これこそがエンジェルウィッチのショーが、みごとなエンターテインメントであることの証。そう私は思っていた。当時のショーの構成をおさらいしておこう。
 
 
 まず最初に、全身にオイルを塗ったダンサーが3~4人出てきて踊るオイルショーがある。オイルショーと言うと、すぐにレズビアンショーを想像するかもしれないが、そういうことはまったくしない。ポールを背に緩やかに身体を動かす。油を塗った肌がライトに照らされて美しい。タイ人の女性の肌の美しさを、これでもかと見せつけるようなショーだ。
 
 そのあと、ダンサーが1人で踊るオナニーショーがある。と言っても、そのフリをするだけで、パンティーは脱がない。しかし、その恍惚とした表情は、日本のストリップショーにも引けをとらない。「いったいどこでこんなことを習うんだろう?」そのみごとなパフォーマンスに、私は舌を巻かずにはおられなかった。
 
 その次は、最初のメンバーが全身泡だらけで登場する。無邪気に身体の洗いっこをするようなしシャボンショーだ。明るい日差しの中で、女の子たちがシャボンで洗い合いながら戯れている。そんな情景が連想される。しかし、これは緻密に計算されていることに気がつくだろう。身体に塗ったオイルを落とすために、どうせシャボンで洗うなら、それをショーでやってしまえということなのだ。
 
 
 シャボンショーが終わると、ステージは泡だらけになる。他の店でシャボンショーをやったあとは、給仕の子たちが雑巾やモップを持ちだして、せっせとステージをきれいにする。その間、ショーはお休みだ。ところがエンジェルウィッチは違っていた。その掃除さえもショーにしていたのだ。
 
 パンティーにシースルーのネグルジェという姿で、オーはステージに登った。手には折りたたんだバスタオルを持っている。それでステージの床やポールについた泡を拭き取っていく。最初のオイルショーでついたオイルも、シャボンショーでついた泡で、簡単に拭き取れる。特にポールはしっかりと拭く。ここが滑りやすいと、そのあとのショーに影響が出るからだ。
 
 オーは、タオルでただ拭き取っていくだけではない。ダンスをしながら拭くのだ。時には片足を高々と上げてポールに這わせ、みごとな180度開脚を見せてくれる。なんと柔らかい体をしているのだろう。さらにぐっと腰を入れて、180度以上の開脚もできるようだ。真剣に踊りながら掃除をする。
 
 この何の変哲もないショーこそが、それぞれのショーをみごとにつなぎ合わせた集大成でもある。ここまでの順番が変わったら、まったく意味がない。だから私は、このショーにエンターテイメントの真髄を感じたのだ。
 
 
 しばらくするとオーは、他のショーを担当するようになった。どうやら掃除ショーは、新米が担当するショーのようだ。オーは、2人で踊るポールダンスショーを担当するようになった。これがまた素晴らしい。天井までポールを登り、そこから開脚して一気に落ちる。それを、2人がタイミングを合わせてやるのだ。
 
 ステージの床から天井までは2m以上の高さがある。そのポールを登って開脚すると、床までは1.5mくらいはあるだろう。それを一気に落ちるのは、私でも怖い。足とかお尻とか、痛くないのだろうか?そんな心配をしてしまうほどだ。
 
 しかしオーは、ストイックに技を極めようとする。2人のタイミングが少しでもズレると、気に入らないような顔をする。その激しさに、相方もついていくのが大変そうだ。可愛らしかったオーが、だんだんと厳しい顔つきに変わってきたのは、この頃だっただろうか。身体も随分と太ってきた。
 
 
 それからしばらくすると、オーは1人で踊るショーを担当するようになった。おそらく、相方と合わせるのが難しいのだろう。太ってはいても、身体の柔らかさはピカイチで、技に切れもあった。四天王と私が呼んだメンバーが次々にいなくなり、いつしかオーは、この店のトップダンサーになっていた。
 
 オーが唯一、2人で踊っていたのがSMショーだった。もちろんS役だ。実にこれがはまり役だった。メイクも、目の周りの黒を強調させ、さらに厳しい顔つきになった。M女の鎖をグイグイと引っ張り、頭を床にたたきつけんばかりに放り出す。その真剣さが伝わってくる。思わずスタンディングオベーションをしたくなる。「みごとだ。ブラボー!」
 
 
 ステージから降りてくると、オーはとても可愛らしかった。ニコニコと私のところへやってくる。私が必ずチップをあげることを知っているのだ。しかも、ショーが終わってからでないと渡さないことも。実に賢い。そんな頭の良さも、オーの魅力だった。
 
 しばらくして、オーの姿を見なくなった。ママさんに聞くと、パタヤのエンジェルウィッチに行ったという。それ以降、ナナプラザのエンジェルウィッチのショーは、だんだんと衰退していく。私にはそう感じられたのだ。そして私も、あまり行かなくなった。
 
 
 ある日、パタヤへ行ったことがあった。オーに会いたくなったのだ。そのためだけに、パタヤへ行き、まっすぐにエンジェルウィッチへ行った。0時過ぎにはバンコクへ帰る。楽しめるのは、わずか2時間だ。
 
 店に入ると、2階まで伸びたポールが目を引いた。そのポールを伝って、次々にダンサーが降りてくる。圧巻だった。そして、ムチを持ったすごい形相の太めのダンサーが登場した。1年以上も見ていなかったが、紛れもなくオーだとわかった。懐かしかった。そして、相変わらず素晴らしかった。昔のエンジェルウィッチのショーが、私の頭の中で走馬灯のようによみがえる。
 
 ダンスが終わったオーを呼び、ビールをご馳走した。「バンコクから来たの?」「そうだよ。オーに会いたくて。ナナプラザには戻らないの?」「うん。こっちの方が楽しいから。」オーがニコリと笑った。その笑顔は、掃除ショーをしていたころの、愛くるしい笑顔だった。