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 もう何度も書いてきたが、私がゴーゴーバーにハマるきっかけになったのが、ナナプラザの2Fにあるエンジェルウィッチで見たショーだった。完璧なエンターテイメント。それがたったビール1杯で見ることができる。そのことに驚き、感動した。そして、四天王をはじめとするショーダンサーたちの、みごとなショーに骨抜きにされたのだ。


 
 今回は、その四天王の中の1人の話だ。四天王というのは、私が勝手にそう呼んだ名前で、エンジェルウィッチの当時のショーダンサーの中で、ピン(1人ショー)を張れる4人のダンサーのことだ。その内の1人は、「長い黒髪のM女」で紹介した。今日は2人目となる。名をビームと言う。
 
 中肉中背で、スタイルがけして良いとは言えない。肌は黒く、目は一重で細い。どう見ても美人の部類には入らない。普段、店の中を歩いていたとしても、さして気にもとめないだろう。そう思われるビームだが、ステージに上がると一気に輝き出すのだ。
 
 ビームは、ショーの間はけして表情を緩ませない。まるで能面でもかぶっているのかと思うほど、無表情のままで踊る。彼女が踊る主なショーは、その日の最後に登場し、1人で鞭を持って踊るショーだ。このショーが始まると、「あー、今日もこれで最後か。」と思うのだった。
 
 
 開脚技は普通のものだが、ポール旋回の大きさが素晴らしく大きかった。ポールを握って後ろに大きく尻を突き出しておいて、勢いをつけて足を客席の方に振り出す。彼女の腰が、ステージ脇のカウンター席に座った客の、頭上にまで達するのではないかと思うほどだった。
 
 一度、カウンター席の客の頭を、みごとに蹴飛ばしたことがあった。そのとき、ビームは初めて白い歯を見せた。客の方も一瞬、何が起こったのかわからずビックリしていたが、事情を察すると笑い出した。店内が急に和やかな雰囲気になった。
 
 それ以降、彼女が大技のポール旋回をしようとすると、給仕の子たちがカウンター席の客を下がらせるようにした。給仕の子たちが忘れていると、ステージ上からビームが指示を出し、客を下がらせた。たしかにあの大技は危険だ。私はなるべく、その場所には座らないようにした。
 
 
 ビームがピン(1人)で担当するショーに、客をステージに上がらせるものがあった。ステージ上に椅子を置き、客はそこに座って後ろ手を組む。別に縛ってはいないが、そこから手を動かすなと言われる。手出しできない男を、女が弄(もてあそ)ぶという設定のショーなのだ。最後は女が男に飛びついて、その太ももで男の首を締め、エビ反りになって終わる。
 
 ショーが始まる前になると、給仕の子やママさんなどが、男性客を誘ってステージに上がらせる。しかしその日、誰もステージに上がろうとしない。向こうの方で1人の客を上がらせようとして、女の子たちが手を引っ張っているのが見えた。もう少しプッシュしたら、折れて上がりそうな感じがした。そのとき、ビームが私のところにやってきた。
 
 「ねえ、あなた上がって。お願い。」私は向こうの客の方を指さして言った。「あそこの客が上がるから大丈夫だよ。」するとビームが言った。「私、あの客は嫌なの。だから、あなたが上がってよ。お願い。早く。」事情はよくわからなかったが、ビームの真剣な表情から、その気持がウソではないことがわかった。
 
 私はすぐに立ち上がり、もう少しでステージのところまで来そうになっていた向こうの客を制して、サッとステージに上った。私のキャラではなかったが仕方がない。ビームはいつものように私を椅子に座らせ、前から私の両手を握って後ろに組ませた。その顔が近づいた瞬間、ビームは小声で言った。「サンキュー」
 
 
 それからいつものように音楽がかかり、ショーが始まった。ビームは相変わらず無表情なまま、淡々とセクシーなダンスをする。散々私をいたぶった後、ビームはパンティーを脱ぎ(と言っても2枚履いているので、1枚は履いたままだ。)、私の頭にかぶせ、着ていたワイシャツをバッとはだけた。ワイシャツを脱ぎ、振り回し、クライマックスに向かう。
 
 あらわにした胸を私の目の前にさらす場面では、私も舌を出して舐める真似をしてみせた。ショーを盛り上げるためのサービスだ。何度も言うが、私はそういうキャラではない。彼女に協力したかったのだ。片足を私の膝に乗せ、もう片足は私の肩に。股間をギリギリまで私の顔に近づけて挑発する。そして、太ももで私の首を締めるようにして、彼女はエビ反りになった。
 
 ショーが終わると、ビームは椅子を持ち、私の手を引いてステージを降りた。ステージを降りるとビームは、私の頬に軽く口付けをした。そしてまた、「サンキュー」と言ったのだった。特に何もしてあげられるわけではないが、少しでも彼女の役に立ったのなら私も嬉しい。ありがとうと言いたいのは、私の方だった。
 
 
 それからしばらくして、ビームは店から姿を消した。仕事を辞めたのだろう。四天王の一角が崩れた。それ以来、ビームほどのポール旋回を見せるショーダンサーは見ない。無表情な顔の奥に、彼女はどんな気持ちを抱えていたのだろうか。それを垣間見ることもなく、彼女はいなくなったのだ。