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 今回もまた、ナナプラザの2Fにあるエンジェルウィッチのショーダンサーについて話そうと思う。すでに四天王のうちの2人について書いた。「長い黒髪のM女」と「無表情に踊る女」だ。3人目の女は、私が「セクシー女王」と名付けたショーダンサーだ。名をディアと言う。


 今にして思えば、ディアのショーに対する印象が、当初はもっとも強烈だったかもしれない。初めてショーを見たときは、ショーの全体に圧倒された。入り口から入って左手の、後ろの席に案内されたため、詳細がよく見えなかったのだ。けれど近くで見るようになってからは、ディアのショーの素晴らしさがよくわかったのだ。
 
 
 当時はまだ、今のように拡張される前の小さな店だった。エンジェルウィッチのことは、以前から気になっていた。それは店の前で、ボンデージ・ファッションの女の子の姿がよく見られたからだ。「SMショーでもやっているのだろうか?」そう思いながらも、入る勇気がなかったのだ。
 
 その日、勇気を出して店に入ると、店内は観客の熱気に満ちていた。1人のおばさん給仕が私を、空いている席へと案内してくれた。後になってわかるのだが、このおばさん給仕はタイ人ではない。タイ語があまり話せないのだ。それは、私がある程度のタイ語が話せるようになって気がついたこと。今でも働いているので、たまに会うと懐かしくてドリンクをご馳走したりする。
 
 
 それはさておき、案内された席はステージの柱が邪魔になって、あまりよく見えなかった。それでも、ショーの素晴らしさは伝わってくる。私はそのとき、「今度はあのかぶりつきの席で見たい」と強く思ったのだ。そして初めてステージ周りのカウンター席に座った時、ディアのショーに魅せられた。「これはすごい!」正直、そう思った。
 
 ディアは、背はそれほど大きくない。丸顔で目がぱっちりしている。長いまつ毛がきれいに反り返って、ことさら大きな目を強調しているかのようだ。おそらくカールしてマスカラを塗っているのだろうけど、そんなことはどうでも良い。美人と可愛いを足して2で割ったような顔だ。また、ブロンドに染めた長い髪と、白くてきめ細やかな肌が魅力的だった。
 
 
 登場するのは、オイルショーが終わった後。艶(なまめ)かしい感じの曲に合わせて、腰をくねらせながら半裸の状態でステージに上がってくる。踊りながらステージの中をぐるっと巡ると、置いてあった椅子に腰を掛ける。服を脱ぎ、おもむろにベビーローションを取り上げると、高々と持ち上げて腕や身体に垂らしていく。
 
 すっくと立ち上がると、カウンター席の中央付近に座っている客の目の前に腰を下ろし、不敵な笑みを見せながら、驚いている客の手を取る。その手を自分の身体に導いて、ベビーローションを身体に塗らせるのだ。客はワクワクとした表情で、ディアの太もも、脇腹、胸などを触っていく。
 
 そう言えば、こんな情景をどこかで見たような気がした。そうだ、ストリップ劇場だ。舞台の縁に座ったストリッパーが、かぶりつきにいる客に自分の身体を触らせるのだ。おしぼりで手をきれいにさせた上で、膣の中に入れること以外なら大抵ゆるしてくれた。女性の身体に触れる機会が少なかったころは、それだけでも興奮したものだった。
 
 
 ある程度触らせると、ディアは立ち上がってステージの中央へ行き、腰を下ろし、自分でベビーローションを塗り込んでいく。そしてゆっくりと身体を倒し、ステージに仰向けに横たわる。最初は腕や胸を触っていた手を徐々に下げ、太ももや股間を丹念に撫でる。片方の手はそっと、頭から頬、首筋へと這わせる。背を反らせ、目と口を半開きにして、エクスタシーを表現するのだ。
 
 「いったいこんなショーを誰が教えたのだろうか?」日本なら、ストリップ劇場がいくつもあるし、こういうショーをするダンサーは何人もいるだろう。しかしタイでは、これほど完璧にエロスを表現するショーを見たことがなかった。感じているはずはないのだが、「感じているのだろうか?」と疑いたくなるほど、その表情は完璧だった。
 
 静かに、静かに、その手を動かしていく。それは男性が求める激しさとは違って、女性特有の緩やかで果てしないエクスタシー。そして曲が終わるのに合わせて、またゆっくりと、そしてさらに大きく身体をのけぞらせる。「みごとだ。完璧だ。ブラボー!」そう叫びたくなる私がいた。
 
 
 ある日、客がそれほど多くない日があった。私が座るサイドのカウンター席には、私1人が座っていた。反対側には、3人くらいの客がいた。ファラン(西洋人)が1人と、東洋人ぽい顔つきの客が2人。どうやら同じグループのようだった。
 
 ディアのショーが始まった。彼女はベビーローションを身体に垂らすと、なぜか私の前に腰を下ろした。いつもなら、中央に座っている反対側の客のところへ行くはず。私は端に座っていたので、私のところへは来ないと思っていたのだ。不思議そうな顔をする私を見てディアが言った。「あの客はタイ人なの。私、タイ人は嫌い。」
 
 やはり、同じタイ人にそういう姿を見られたり、身体を触られることに抵抗があるのかもしれない。なんとなくそう思った。私は、ディアの身体についたベビーローションをゆっくりと伸ばしてあげた。彼女は立ち上がるとき、「サンキュー」と私に言った。私はたっぷりと手についたベビーローションを、給仕の子が持って来たタオルで拭きとった。
 
 
 外国人が相手だから、あられもない姿を見せることにも抵抗が薄れるのかもしれない。それは夢と同じように感じられるから。旅の恥はかき捨てとよく言うが、彼女たちもここで働いているときは、現実から目を背けられるのかもしれない。そんなことを思った。
 
 タイではここ数年、アムという女優がセクシー女優のNo.1として選ばれている。アムは面長の顔をしているが、もしディアがもう少し面長だったら、アムに匹敵するくらいセクシーだったのではと思っている。色白できめ細やかな肌は、間近で見ているとつい触りたくなってしまう。そのディアの姿は、もう5年くらい前から見なくなった。