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 引き続き今回も、ナナプラザの2Fにあるエンジェルウィッチのショーダンサーについての話だ。今回が四天王の最後になる。おそらく四天王の中では、もっとも目立つ存在だろう。女ならヒローインなのだが、彼女はヒーローと呼ぶ方がふさわしい。名をジーと言う。


 
 単独で踊るショーの中で、ジーのショーほど観客が熱狂するものはなかった。音楽もアップテンポなものだったが、観客が盛り上がるツボを知っているかのようだった。「かっこいい!」きれいでも、かわいいでもなく、ましてや色っぽいでもなかった。それが彼女に対する印象だった。
 
 ジーは背は普通くらいで、太ってもいないが痩せ過ぎでもない。みごとなプロポーションをしていた。顔は丸顔で、肌は黒い。その肌に彫られたタトゥーに、野性的な雰囲気さえ感じる。短めのチリチリパーマの髪型から、活発な性格に見えた。そして、客を魅了してしまうのは、彼女の底抜けに明るい笑顔だった。
 
 
 格好をつけたステップを踏みながら、彼女のショーはスタートする。ときどき観客席に視線を送り、ニコッと笑ってみせた。一つひとつの動作に、これが魅力的に見えないはずがないという、彼女の自信が感じられた。
 
 大技を繰り出す前には、わざとじらして拍手を求め、観客の参加を促した。彼女の大技は、倒れこみ開脚。前蹴りのように片足を正面に振り上げると、その足を抱え込むようにして前方に倒れこむ。足は前後に開脚し、上体は前の足にくっついたようになる。そのまま横に一回転する。
 
 しかし、その程度の大技なら、ソイカウボーイのローハイドやロングガンのショーでもやるだろう。ジーの魅力は、技のすごさではないのだ。ショーそのものをエンターテイメントとして、客の気持ちを盛り上げるために利用している。そう感じられるほど、観客が盛り上がるのだ。
 
 
 私は彼女をエースと呼んだ。もちろん、私の頭の中でそう呼ぶだけだ。四天王の中でも、もっとも素晴らしいショーを見せてくれる。ここエンジェルウィッチのショーを代表するダンサーだと思ったからだ。
 
 ショーが終わると拍手をするが、彼女のショーに対しては、本当にスタンディングオベーションを贈りたかった。チップを100バーツあげていたが、途中でそれでは物足りなくなった。「こんな素晴らしいショーにたった100バーツだって?冗談じゃあない。彼女のショーは、もっとすごい価値があるんだ。」私はその衝動に耐え切れなくなって、毎回、500バーツのチップをあげるようになった。
 
 
 それからしばらくして、ジーの姿が見えなくなった。やめてしまったのだろうか?ポツン、ポツンとくしの歯が抜けていくように、四天王やメインのダンサーがいなくなってしまう。彼女たちと比較するからだけど、そのあとでショーをするようになったダンサーたちを、私は物足りなく感じた。
 
 
 ジーを見なくなって、どれだけの月日が経っただろうか。ある日、久しぶりにエンジェルウィッチのショーを見に行った。すでにショーが始まっていたが、店の奥にあるカウンターに、ショーの衣装を着た女の子が座っていた。まるでうずくまるように背中を丸めていて、顔を見ることができない。しかし、その後姿に感じるものがあった。「ひょっとして、ジー?まさか?」
 
 ショーが進み、ついに彼女の番になったようだ。席から立ち上がった彼女の横顔が見えた。「たぶんジーじゃないか?」そう思うものの、確信が持てなかった。ステージに椅子が置かれた。ダンサーは1人。「間違いない。あれはジーだ。」そして、いつもの聞き慣れた曲が始まった。
 
 
 ステージに上った彼女は、間違いなくジーだった。しかし、やや昔とは雰囲気が違い、少し太ったかもしれないと思った。肌も以前のようなハリがなく、衰えた感じがした。年齢のせいだけとは思えなかった。表情も固く、笑顔も出なかった。ただ淡々とダンスをしているだけ。以前のような盛り上がりはなかった。
 
 ショーが終わった後、ジーは私のところへやってきた。私のことを覚えていたのだ。「ねえ、テキーラを飲んでいい?」すぐにOKした。「久し振りだね。元気だった?」そんな他愛もない会話をするが、そんなには続かなかった。「もう1杯飲んでいい?」それもOKしたが、なんだか楽しいお酒という気がしなかった。
 
 
 しばらくすると、さらに飲ませてくれと言ってきたので、さすがにそれは断った。「ダメなの?じゃあ行くね。」そう言うとジーは、何の未練もないかのように他の客のところへ行った。
 
 彼女に何があったのかは知らないが、私が知っている昔のジーではない気がした。もはや四天王とは呼べない。悲しくもあったが、それもまた現実なのだろう。私が愛したエンジェルウィッチの四天王たちは、完全にいなくなってしまったのだ。