店内の音楽は止み、いつもの照明の代わりに普通の蛍光灯が点灯した。
ステージ周りのイスを、従業員がひっくり返してカウンターに乗せていく。
帰り支度をした女の子たちが、次々と2階から降りてきた。
 
 
こんな中で、ソファーに座っていていいのだろうか。
すでに精算は済ませたが、わずかに残ったビールのビンが目の前にある。
なんだか居心地が悪くなって、オレは立ち上がって外に出ようとした。
ちょうどそのとき、ボーが2階から降りてきた。
 
 
私服に着替えたボーは、ステージ上より子供っぽく見えた。
「ねえ、何か食べていかない?」
ボーの誘いで、ソイ23をスクンビット通りの方へ向かった。
50mほども行くと、店の前に水槽を出しているシーフードレストランがあった。
 
 
入り口は狭いが、奥に入ってみると意外と広い。
適当なテーブルを見つけて座ると、すぐに店員が注文をとりに来た。
ボーが適当に注文し、それらはどれもオレの口に合った。
海老やカニなどのシーフード以外なら、そんなに高いとは言えない。
 
 
少し量が多くて、だいぶ食べ残してしまった。
タイ人は持って帰る人が多いが、ボーはいらないとと言うので残した。
2人分で8百何十バーツだか。
お釣りから100バーツ札1枚を抜き取って、あとはチップとしておいた。
 
 
 
スクンビットまで出て、オレたちはタクシーを拾った。
ボーの住むアパートはエッカマイだという。
タクシーはスクンビットを東に進み、トンローの交差点を過ぎ、エッカマイの交差点で左折した。
エッカマイも通りの名前で、スクンビット・ソイ63になる。
 
 
タクシーは、エッカマイでちょっとした渋滞に巻き込まれた。
このあたりにはクラブなども多く、ちょうど帰りの時間になるのだ。
それでも、食事をして時間を遅らせたのが良かったようだ。
間もなく渋滞を抜けた。
 
 
しばらく行くと、ニューペップリー通りを越える陸橋を渡りだした。
えーっ、エッカマイじゃないの!?
オレは、スクンビットとニューペップリーの間をエッカマイというのだと、勝手に思い込んでいたのだ。
 
 
ニューペップリーを越え、ラマ9世通りを越え、タクシーはさらに北上した。
どこまで連れて行かれるのだろう?
一瞬、心の中を不安がよぎったが、ボーの笑顔がそれを打ち消した。
タクシーは、閑静な住宅街のようなところに入った。
あとで知ったのだが、もう少し行けばラップラオ通りのようだった。
 
 
あるアパートの前で、オレたち二人はタクシーを降りた。
ボーは、オレの手を握って、引っ張って行く。
入り口はオートロックになっていて、ボーが暗証番号でドアを開けた。
リフトに乗り、ボーは4階のボタンを押した。
タイでは、エレベーターのことをリフトと呼ぶのだ。
 
 
 
ボーの部屋は、一番奥にあった。
ドアノブには、それを完全に包むようなカバーがしてあった。
ボーはバッグから鍵を取り出すと、ドアノブのカバーをはずしてから、ドアを開けた。
サムターン回しなどの被害もあるのだろうか。
そこまでするのかと驚くほどの用心深さだ。
 
 
部屋に入って電気をつけると、あまり物がないものの、女の子らしい部屋がそこに広がっていた。
部屋の広さは約10畳ほど。
それ以外に、正面左手にホンナームと呼ばれるトイレ兼シャワールームがある。
中央あたりはベランダになっており、右手は押入れと言うか、ウォーキングクローゼットのような感じだ。
全体では30平米弱といった感じだろうか。
キッチンはない。
 
 
 
初めて入るタイ人の女の子の部屋に、オレはとても新鮮なものを感じた。
玄関というものがないので、入ったところで靴を脱ぎ、ドアの近くに置いた。
左手にあるソファーに案内され、オレは腰を下ろした。
ボーはすぐにテレビをつけ、扇風機を回した。
エアコンもあるが、あまり使わないようだ。
 
 
入り口から見て右手にダブルベッドが置いてあり、枕が2つ、抱き枕が2つ置いてある。
暑いからかどうかわからないが、なぜかタイ人は抱き枕が好きなようだ。
枕元には、女の子らしい小物やぬいぐるみなどが置かれている。
 
 
ボーは、ウォーキングクローゼットのような小部屋に入ると、服を脱ぎ始めた。
引き戸が曇りガラスになっているので、中の様子はわかる。
バスタオルを体に巻き、着替えを持って出てきた。
「シャワーを浴びてくるから。」
そう言うと、ボーはホンナームに入って行った。