お昼過ぎにボーが目覚めるまで、オレはベッドに横たわっていた。
ときどきボーの寝顔を見て楽しみ、またうとうととした。
 
 
「もう起きる?」
目を覚ましたボーにそう問うと、ボーは何も言わずにバスタオルを持ってホンナームへ向かった。
まだ寝ぼけているのだろう。
 
 
ホンナームから出てきたボーとすれ違いに、オレもホンナームに入った。
用を足し、シャワーを浴びて出てくると、ボーはもう着替えていた。
 
 
何か食べに行こうということになり、オレは自分の服を着た。
ボーは、ベッドやホンナームをきれいにしてから、かわいらしいポシェットを首から提げた。
 
 
表に出ると、南国の強い日差しが照りつけていた。
すぐにタクシーを拾い、ザ・モール・バンカピへ向かった。
タイ人は、ザ・モールとは言わない。
「デモー」なのだ。
オレもタイ人ぽく、そう言うようにしている。
 
 
ザ・モールには、いろいろな店が入っている。
ボーはその中からチェスター・グリルというファーストフード店を選んだ。
タイ料理っぽいものからスパゲティーなど、安くてタイ人好みの料理がある。
 
 
カウンターでメニューを見て、ボーはガイ・ヤーン(焼き鳥)とご飯のセットのような料理を選んだ。
オレは、シーフードスパゲティーにした。
ところが、このスパゲティーが意外に辛い。
オレは顔から汗をかきながら、ふーふー言って食べる羽目になった。
 
 
ボーは、これから買い物をして部屋に戻り、夕方またソイカウボーイへ出勤すると言った。
オレは今日ホテルをチェックアウトして、日本へ帰ることを告げた。
22:25のJL718に乗るには、バンコクを遅くとも20時には発ちたいところだ。
 
 
食事が終わると、ボーは「じゃあ私、行くね。」と言った。
オレは財布から千バーツ札3枚を抜き出し、ボーに渡した。
そして、「また会おうな。」と言って、炎天下の表に出た。
 
 
客待ちをしているタクシーを捜して、すぐにオレは乗り込んだ。
「スクンビット・ソイ15のマンハッタン・ホテルへ。」
タクシーは、ゆっくりと通りへ出て行った。
 
 
 
ホテルの部屋に戻ったオレは、ベッドメイクされたばかりのベッドに横になった。
2日分として40バーツを枕に置いておいたが、それはもうない。
きっとわかってくれたのだろう。
 
 
残り少なくなったペットボトルのミネラルウォーターを手にして、テレビのスイッチをオンにした。
チャンネルをいくつか変えてみたが、特に興味を引くものはなかった。
 
 
さて、もうすぐバンコクをあとにしなければならない。
そして、明日の朝には日本に到着し、また仕事が待っている。
そう思うと、残りわずかな時間が無性に愛しくなる。
 
 
今回出会った、ジュンやボーのことを考えた。
考えたというより、出会ってから別れるまでを心の中で反芻したのだ。
何度も、何度も、その甘美な思い出を味わうように繰り返した。
 
 
オレは、後悔はしない。
そんなことは、するだけ無駄なことだと思っている。
起こったことは起こったことだ。
それよりも、これから起きることに関心を持っていたい。
だから、思い出をなぞるのは、単に再びそれを楽しむためでしかない。
 
 
 
夕方5時、荷物をまとめてホテルをチェックアウトした。
残り3時間をどうするか、答えは出ていた。
まずは軽く腹ごしらえをしよう。
ホテルを出てスクンビット方面へ向かった。
 
 
ソイ15のパクソイ(小路の入り口付近)の角に、タイ飯屋がある。
ここは外国人の間で人気のようで、西洋人などがよく利用する。
そこに入って、パッタイ(タイの焼きそば)とコームーヤーン(豚の喉肉焼き)を食べた。
壁がないので、通りを行く人がよく見える。
逆に言えば見られているのだが、気にはならない。
 
 
食べ終わって精算をし、オレはスクンビット通りを歩いて東へ向かった。
太陽は傾いていたが、歩くとやはり暑い。
オレはバンコク滞在の最後を、マッサージで締めくくるつもりでいた。