まだ空は真っ暗になりきっていなかった。
初めて足を踏み入れたソイカウボーイは、そこだけがネオンに輝く街のようだった。
ソイは小路のことだから、カウボーイ通りとでも言うのだろう。
ベトナム戦争当時、アメリカ軍の保養地として発展した経緯があるという。
 
 
入口付近のレストランに入って、ハンバーガーとコーラを注文した。
さすがにアメリカのようなビッグサイズだ。
 
 
「まだ時間が早いからよ、ここで外でも眺めながら時間をつぶそうぜ。」
「先輩、ここもすごいっすねえ。新宿の歌舞伎町みたいじゃないっすか。」
「このほとんどがゴーゴーバーなんだぜ。まあ、パタヤの方がもっとすごいらしいけどな。」
 
「ほら見てみろよ、あれ。あの店が有名なバカラさ。日本人に人気の店だぜ。」
「へえー。じゃあ、今入って行った私服の女の子は、あの店のダンサーですかね?」
 
「たぶんな。今くらいから9時くらいにかけて、女の子が続々と出勤してくるんだ。」
「なんか、私服の姿を見ると普通の子みたいっすね。それに、歳も若そうだし。」
 
 
そんなことを話しながら、時間が過ぎていった。
7時半を回った頃、マサ先輩に促されて店を出た。
そしてまず、人気のバカラという店に入った。
マサ先輩は、入って右手の空いたソファーの席に、さっさと座ってしまった。
ボクも、先輩について行って、その隣に座った。
 
 
「ほら、ここはけっこういい席だろう。上で踊ってる子がよく見えるんだぜ。」
「あっ、すっげー。丸見えじゃないっすか。上で踊ってる子は、パンティーを履いてるんすか?」
「さー、自分で確かめてみろよ。」
 
 
ボクが一生懸命に上を見上げてスカートの中を覗いている間に、マサ先輩は店員にビールを注文した。
まだ客は少なく、女の子の人数も少ないようだった。
 
 
「上の子の衣装って、あれ学生服ですかねえ?」
「たぶんな。白いブラウスに黒いスカートっていうのが、タイの女子学生みたいだな。」
「なんかあの、見えそうで見えないっていうのもいいっすねえ。」
 
「ほら、おめえが口をぽかーんと開けて見上げてるもんだから、上の子も笑っておめえのこと見てんじゃないか。」
「あっ、本当っすね。きっとバカみたいに見えるんだろうなあ。」
 
 
そう言いながらも、微笑みかけられるのはまんざら悪いものではない。
ふと正面を見ると、1階のステージでもパレオを腰に巻いた水着姿の女の子たちがこっちを見て踊っていた。
 
 
「先輩、1階の子たちは、みんなスタイルがいいっすねえ。上が子供っぽい感じだから、なんか対照的でいいっすねえ。」
「まあな。タク、1階の子たちはパンティーを履いていると思うか?」
「えーっ、1階の子たちですか?見えないけど、履いているような、履いていないような。」
 
「ほら、向こうの客を見てみろよ。ずっと下を見てるだろ。あれ、ステージが鏡みたいになってて、それに映ってるのを見てるんだぜ。」
「そうなんすか?うわーっ、けっこうマジで見てますね。」
「ステージ周りに座って上を見ると首が疲れるだろ。だから、カウンターに座ったら、下を見るんだよ。」
 
 
そうやって他の客を観察してみると、これはこれで面白い。
店員が、こまめにカウンターを拭いているのがわかる。
おそらく、グラスの水滴が付いたカウンターをきれいにしているのだろう。
よく見えるようにという、客へのサービスなのかもしれない。
 
 
「これって、日本のノーパン喫茶のスタイルですね。」
「まあな。違いは、この子たちを連れ出せるってことかな。」
 
 
しばらく見ていると、ダンスのグループが交代する時間になったようだ。
上から降りてきた学生服姿の女の子2人が、目の前にやってきてここに座っていいかと言った。
マサ先輩がすぐにOKと言うと、2人はそれぞれボクとマサ先輩の隣に座った。
 
 
「サワディーカー。クンチューアライカ?」
「???キャンニュースピークイングリッシュ?」
 
「OK。アー、ハワユー。ユアネーム?」
「マイネームイズ・タク。ワッチュアネーム?」
 
「ルン」
「ユアネームイズ・ルン?」
「イエース」
「OK。ナイスチューミーチュユー。」
 
 
お互いに英語はたどたどしいが、それでも意思は通じているようだ。
そんな体験も、日本にいたらできなかっただろう。
初めての海外旅行で、誰にも頼らずにこうして現地の人と話をしている。
それだけでも、ボクにとっては貴重な経験だと思った。
 
 
店員がやってきて、ペイバーしろと言ってきた。
ボクとマサ先輩は相談して、今日はもうしばらく見て回ることにした。
そう告げると、女の子たちは立ち上がった。
 
 
「アイゴー。ター・フィニッシュ・コー・カムバック・ナ。」
「OK。バイバーイ。」
 
 
ダンスの順番が回ってきたらしい。
その子たちは、また2階へと上がって行った。
 
 
「先輩、さっきあの子、なんて言ったんすかねえ?なんとなく、終わったらまた戻って来るみたいなことを言った気がするんすけど。」
「たぶんな。まあ、気にするこたあねえよ。ほら、上見てみろよ。さっきの子たちが素っ裸で踊ってるぜ。」
 
 
見上げると、数人の女の子がオールヌードで踊っていた。
前から後ろからだけでなく、こうやって下からも見られている。
よくも恥ずかしがらずに踊れるものだと、これまた感動を覚えるのだった。