バカラの前は、閑散としていた。
まだ7時を過ぎたばかりだから、そんなものなのだろう。
入り口のカーテンをくぐると、音楽は鳴っているものの、誰も踊ってはいなかった。
引き返そうかと思ったが、ぐっと足に力を入れて踏みとどまった。
ボクの目的は、踊っている女の子たちを見ることじゃない。
 
 
店に入ると、店員が案内してくれた。
案内されるがままに、右側のソファー席に座った。
注文を聞かれ、とりあえずシンハービールをたのんだ。
 
 
店員が戻ってくるまでに、ボクは言うべきことを何度も頭の中で繰り返した。
そして店員がビールを持ってきたとき、ボクは勇気を出して言った。
 
 
「アイウォントゥーシー、ルン。ディドゥシーカムヒアオーレディー?」
「???」
 
「ルン、ルン。ドゥユノー、ルン?ナンバー○○」
「オー、ヤー。アイ、チェック、ナ。」
 
 
どうやら伝わったらしい。
店員の子は、調べてくると言ったのだろう。
しばらくビールを飲んで待っている間に、数人の女の子が踊り始めた。
 
 
そう言えばルンは、2階で踊っていたはずだ。
ボクはいまさら、2階で待っていた方が良かったかもしれないと後悔した。
しかし、仮に2階へルンが行ったとしても、ここにいれば会えないはずがない。
そう思い直して、そこで待つことにした。
 
 
やっとさっきの店員が戻ってきた。
彼女は、ボクが予想もしていなかったことを言った。
 
 
「ナウ、シーダズントワーク。3マンスアゴー、シーゴーアウトフロムヒア。」
「えっ!?ルン、ダズントワークヒア?リアリー?ナウ、フェアーイズシー?」
「アイドンノウ。」
 
 
ボクは放心状態になってしまった。
唯一のよりどころだったバカラで、ルンと出会うための糸がプツリと切れてしまったのだ。
どうしたらいいのか、何も考えられなくなってしまった。
ただ呆然と、もぬけの殻のように、ボクはステージを見つめていた。