次の日、ボクはボーっとして部屋の中にいた。
いったい何なんだろう。これほどの思いでバンコクまでやってきたのに。
ルンのそっけない態度に、ボクの心は傷ついていた。
あのときの涙はウソだったのだろうか。
 
 
午後になり、さすがに部屋を出て行かなければと思った。
ベッドメイクのために、ホテルの従業員がやってくるからだ。
ボクはサイドデスクの上に20バーツ札を置き、貴重品が入ったウエストバッグを腰に締めて部屋を出た。
と言って行く当てもないので、とりあえずホテルのレストランで食事をすることにした。
 
 
ホテルのレストランは、意外と人が少なかった。
きっと、朝食と夕食がメインなのだろう。
それほど食欲もなかったので、チャーハンとコーヒーを注文した。
 
 
食事を済ませてコーヒーを飲んでいると、さっきまで向こうで食事をしていた客がこちらへやってきた。
40歳くらいの日本人男性のように見えた。
ボクのテーブルの近くまで来たとき、彼がボクに話しかけてきた。
 
 
「あの、失礼ですが、来るとき一緒だった方ですよね?」
「えっ、そうですか。昨日の夕方に来たんですけど。」
「やっぱりそうだ。どこかで出会ったと思っていたんですよ。昨日同じ車でここへ来ましたよね。あとは60歳くらいの2人組。」
「ええそうです、そうです。ああ、じゃああのときの方ですか。」
 
 
なんだかよくわからなかったが、どうも一緒の車でホテルに来た人らしかった。
年上の人を立たせておくのも悪いと思ったので、一緒のテーブルに座ってもらうことにした。
 
 
「私、相沢と言います。バンコクには年に数回旅行で来るんですよ。お宅もそうですか?」
「いえ、これがまだ2回目なんです。」
「へえー、そう。でも、せっかく旅行で来ているのに、こんな時間にホテルにいるんですか?もったいないですね。」
 
 
自分自身のことを差し置いて何を言っているんだろうとも思ったが、その男性の落ち着いた大人の雰囲気に、妙に安心感を感じていた。
それに旅先の開放感もあって、ボクは相沢という男に旅行の目的などを話し始めた。
 
 
「へえー、そうなんだ。ゴーゴーバーの女の子に会うためにねえ。いいねえ、若いって。そうやって一途になれるんだからね。」
「相沢さんは、何をしに来られているんですか?ボクと同じで、こんな時間にホテルにおられるなんて、もったいないでしょ。」
「ははは、これは一本やられたな。実はキミと同じだよ。ボクも目的は夜だから、昼間は暇なのさ。特に観光したいとも思わないしね。」
 
 
相沢という男は、自分の旅の目的について、少しずつ話し始めた。
それによれば、彼は夜遊び目的で年に数回旅行に来ているのだとか。
長期で休暇が取れないときは、金曜日の夜便でやってきて月曜日の朝に成田に帰るという、強行スケジュールでやってくることもあるそうだ。
そうまでしてでも、バンコクの夜遊びは楽しいと、子供のように目を輝かせて話すのだった。