相沢は、ボクの中に同じような匂いを感じたのだという。
それで、何となく話しかけてみたかったのだと。
ボク自身は、彼にそれほど共通するものを感じていなかった。
ただ、何でも受け入れてくれるような懐の深さに、少しずつ魅了されていた。
 
 
「実は、せっかくその子に会いに来たのに、何か違うんですよ。情熱を感じないって言うか...。ボクは、わざわざ日本から会いに来たんですよ。」
「ふーん、彼女の態度が変わってしまったって言うんだね。」
 
「そうなんです。ちょっとひどくないですか。この前の別れるときは、お互いに涙を流しながらずっと抱き合ったんですよ。」
「キミにしてみると、わずか3ヶ月しか経っていないのに、心変わりしたような彼女の態度が許せないんだね。」
「そりゃそうですよ。お金まで無理して貸してあげたし。いや、お金の問題じゃないんです。ハートの問題ですよ、ハートの。」
 
 
相沢に話をしながら、ボクはだんだんと興奮してきた。
今までの不満の捌け口を、すべて引き受けてもらおうとするかのように、あらいざらいしゃべりまくった。
相沢は、そんなボクの話を、穏やかに相槌を打ちながら聞いてくれた。
 
 
「なんだか、私の昔を思い出しますよ。私が若かった頃、そんなことが何度かありました。」
「相沢さんにも、そんなことがあったんですか。それで相沢さんは、どうしたんですか?」
「どうにもなりません。事態は、なるようにしかならないものです。」
「それって、ただ諦めるしかないってことですか?なんだか嫌だなあ。」
 
 
まったく失礼も省みず、ボクはルンのことを諦めろと言われているようで、反発してしまった。
その様子を見ていた相沢は、ニコッと微笑んで話し始めた。
 
 
「タクくんと言ったね。キミはまだ若いからわからないかもしれないけど、愛するっていうのは、相手を縛り付けることじゃないんだよ。むしろ逆に、手放してあげることさ。」
「???」
 
「今のキミは、言葉では愛していると言っているけど、行動は、ルンちゃんを自分の思い通りにさせようとしているだけだよね。キミの期待通りにルンちゃんが思ってくれて、行動してくれないと気がすまないんだろ?」
「いや...。ええまあ、そういうことになりますかねえ。でも...。」
 
「まあ、聞きなさい。もし彼女が本当は、キミの思い通りの行動をしたくなかったのだとしたら、それでもキミは彼女がウソをついてくれることを望むのかい?ウソをついている彼女を見て満足するのかい?」
「...。そんなことはないですよ。ボクは彼女を愛しているから、彼女の本音が知りたいです。」
 
「じゃあ、もうわかっているじゃないか。ルンちゃんは、キミとの出会いを、キミが思っているほどには感激していないんだよ。キミは、大勢いるお客さんの一人なんだよ。」
「きっついなあ!そうかもしれませんけどね、でも、お金も貸しているし...。」
「お金を貸すのは愛かなあ。金貸しだってお金を貸してくれるよ。まあ、じっくり考えてみるんだね。人生は長いから。」
 
 
相沢は、そう言って立ち上がり、軽く手を上げて挨拶すると、足早に去って行った。
一人レストランに取り残されたボクは、釈然としない気持ちのまま、残りのコーヒーを飲み干した。