次の日の午後、ボクはホテルのレストランにいた。
何かを食べたかったからではない。
ただ、相沢に会って話をしたかったのだ。
行動パターンが似ているという相沢が、またレストランに現れるのではと期待したのだ。
 
 
しばらくして諦めかけた頃、相沢がやって来て、近くの席に腰を下ろした。
特に食べるつもりがないのか、ホットコーヒーだけを注文した。
ボクは席を立って相沢の元へ行き、遠慮がちに声をかけた。
 
 
「あのー、相沢さん。お話させていただきたいのですが、ここ座っていいですか?」
「やあ、キミか。タクくんだったね。いいよ、さあどうぞ。」
 
 
相沢は笑顔を浮かべて歓迎してくれた。
ボクは席に座って、すぐにルンとの出来事をすべて相沢に話した。
 
 
「そっかー。それは辛かったねえ。まあでも、ほんとよくある話だよ。」
「そうですかあ。ボクはもうショックで、食事ものどを通らないくらいなんです。」
「気持ちはよくわかるよ。私も似たような経験があるからね。」
「やっぱりお金が目的なんですかね。ボクは、純粋に愛したのに。」
「まあ、そう一概には言えないさ。彼女たちも同じ人間なんだから。」
 
 
相沢がルンを弁護しようとすると、それは間接的にボクを批判しているように聞こえた。
ボクはそのとき、相沢にボク自身を認めてほしいという気持ちがあることに気付いていなかった。
 
 
「そうかもしれませんけど、せめてボクの気持ちの10分の1でもボクのことを考えてくれたら、もっと違う対応があってしかるべきですよ。」
「あははは、やっぱりそう思うんだ。」
「何がおかしいんですか?失礼ですよ。ボクは真剣なのに。」
「いや、ごめんごめん。あまりに典型なので、つい笑ってしまった。ほんとごめん。」
 
 
ボクは、受け入れてほしくて話をしている相沢が笑ったことに、無性に腹が立った。
若造と思ってバカにしているのではないか。
今まではルンに対する憎しみのような気持ちがあったが、それが相沢にまで広がろうとしているのを感じた。
 
 
「何がそんな典型なんです?」
「キミが今言ったことだよ。自分の気持ちの10分の1ほどでも相手が思ってくれたら。そう言ったよね。」
 
「ええ、言いましたよ。だってそうでしょう。ボクは心配で心配で、何度も何度も電話をかけ続けて、ついにはまたバンコクにやってきたんですよ。どれほど彼女のことを思ってきたか、誰が見たってわかるでしょう。」
「それに対して、彼女は全くキミのことを思っていないと。本当にそうかなあ。」
「本当でしょう。他にどんなことが考えられるって言うんですか?」
 
 
ボクはもう、相沢の話を聞こうという気持ちがなくなっていた。
ボクのことを受け入れてくれない相沢に、相談を持ちかけたことを後悔し始めていた。
 
 
「彼女がそもそもキミのことを、恋人のように好きだと思っていなかったどうなる?彼女にとってキミは、単にお客さんの一人だった。彼女は、お客さんに気に入られようとして一生懸命に働いたんじゃないのかなあ。」
「そんなことはないですよ。彼女はボクと別れたくなくて、涙まで流したんですから。」
 
「そんなテレビドラマはたくさんあるよね。涙を流したら、それは恋人同士の別れなのかい?」
「...。」