相沢の言葉に反論したかったが、絶対的に自分が正しいと主張できないことに気付いていた。
それでボクは、ただ黙り込むほかなかった。
 
 
相沢は、彼女がどんな考えだったと推測できるかを、丁寧に説明してくれた。
もちろんそれは可能性の一つであり、必ずしも真実ではないことも付け加えた。
ボクは、今まで凝り固まっていた自分の考え以外に、もっと広い世界があることを、少しずつ受け入れ始めた。
それは最初、とても辛い試みだった。
しかし、相沢の話を聞いているうちに、心の中に余裕ができていることも感じていた。
 
 
「彼女は、何らかの事情でお金がすぐに必要だったのかもしれないね。それで手っ取り早くウソをついてキミからお金を借りた。」
「じゃあ、やっぱり騙したんですね。ボクのことを。」
 
「そう性急に結論付けるものじゃないよ。これはあくまでも推測なんだから。お金をいずれ返すつもりだったかもしれない。でも3ヶ月経つ間に、だんだんと返さなくてもいいかなと思ってたかもしれないね。そんなときにキミが目の前に現れてビックリしたわけさ。」
「それって、自分勝手な理由じゃないですか。」
 
 
相沢の推論に納得できるところもあったが、受け入れがたい部分もあった。
そんなとき相沢は、けして無理に意見を押し付けては来ない。
 
 
「うん、そうかもしれないね。でも、人間って誰でもそんなに強くはないもんだよ。それに、ひょっとしたら彼女は本当にキミのことが好きだったとも考えられるね。」
「えっ、そうなんですか!?だったらどうして...。」
 
「彼女は、キミから金目当ての女だと思われているんじゃないかと、それが不安だったのかもしれないね。でも、返したくても今は返すためのお金がないし。そんなとき、キミから一番痛いところを突かれたってわけさ。」
「それで急に怒り出したってことですか。うーん、なんとなくわかるような気もします。」
 
 
相沢は、終始穏やかに話し続けた。
ボクは、相沢と話をする中で、少しずつ元気を取り戻していった。
あのままでは、ひょっとしたらどこかで自殺してしまったかもしれない。
そんな最悪の心の状態だったのが、相沢との会話の中で確実に変わっていった。
 
 
相沢は、いろいろな例を出しながら、様々な可能性があるのだから、自分で勝手に答を狭めないようにと忠告した。
そして、常に答を求めることが正しいとは言えないということも、覚えておくべきだと言った。
 
 
様々な可能性を秘めた混沌を、混沌のままで腹の中にしまっておくこと。
その許容力の大きさが人間としての器の大きさであり、愛の大きさだと相沢は言った。
ボクにはまだ、何のことだか理解できない部分もあった。
でも、相沢の落ち着いた大人と思える語り口に、この人はそういう器の大きな人なのかもしれないと感じていた。