ふと窓の外に目をやると、頂に雪をかぶった富士山が陽光に輝いていました。
いよいよこれで、日本とはしばしのお別れになります。
名残惜しい気もしましたが、それよりも新しい人生に向けての期待で、子供のように胸をときめかせているのです。
 
 
私の名前は、鈴木清一郎と申します。
1年ほど前に、40年ほど務めた会社を無事に定年退職いたしました。
数年前から、バンコクで余生を過ごすことを夢見て、準備してきたのです。
その夢が叶い、今こうやってタイに向かっているところなのです。
 
 
思い返してみると、いろいろなことがこの3年間にありました。
3年前はまだ、まさかタイに移住するなどとは考えてもいなかったのです。
それがひょんなことで、こういうことになってしまいました。
人生とは、全く不思議なものでございます。
 
 
きっかけは、3年前の社員旅行でした。
我が社では、5年に1回、社員旅行で海外へ行く慣習になっていたのです。
行き先は、たいてい社長が決めます。
小さな、ワンマン社長の会社ですから、誰も反対などできません。
 
 
そういう関係で、海外旅行は数回経験していました。
でも、タイへの旅行は、そのときが初めてだったのです。
 
 
社員全員で一度に行くわけにはいかないので、2つのグループに分かれて、日程をずらして行きます。
私は、副社長と同じグループで、総勢20名ほどのタイ旅行となりました。
行き先は社長が決めるものの、現地でのツアーや観光は、グループのリーダーが決めます。
私のグループのリーダーは、言うまでもなく副社長です。
 
 
社長のグループは、チェンマイ、スコータイ、アユタヤなどを観光して、バンコクで1泊して帰国するというものでした。
私のグループは、どういうわけかバンコクだけに4泊5日となったのです。
アユタヤへの日帰りツアーなどは入っていましたが、参加は希望者のみ。
ずっとバンコクで何をしているのか、そのときはまだよくわからなかったのございます。