彼女はしばらくベッドの上で、ぐったりとしたように横たわっていました。
すっかり興奮が冷めてしまった私は、起き上がってバスルームへ向かいました。
シャワーを浴びながら、これが夢であってくれればと何度も思ったのです。
また、そんな自分自身が情けなく思え、ひどく自己嫌悪したのです。
 
 
シャワーから出ると、入れ違いに彼女もバスルームへ入っていきました。
彼女がシャワーを浴びている間、私は服を着てソファーに腰を下ろし、これからどうすべきかと考えました。
まったく愚かなことをしてしまったものですが、済んだことはどうしようもありません。
後悔先に立たずと何度も言われてきたはずなのに、還暦を過ぎて人生最大の後悔をする破目になってしまいました。
 
 
しかし、迷ってばかりもいられません。
性病などの心配は、時間が経たなければどうにもならないことです。
それに、幸いにも妻と関係を持つことはないので、バレる心配はなさそうです。
ともかく、彼女との関係をどうするのか決めなければなりません。
そこで私は、お金を渡すことによって、彼女との関係を清算しようと思ったのです。
 
 
彼女はバスルームから出てくるなり、目を輝かせて言いました。
「あなたのこと大好き。私たち、恋人同士な。」
いや、そうじゃないんだよ。このお金で全ておしまいにしたい。
そう言おうと思っていたのに、しっかりと胸に抱きついてくる彼女を抱いているうちに、私は言う機会を失ってしまったのです。
 
 
彼女は、明日はどこへ行くのかと聞いてきました。
予定では、アユタヤへ日帰り観光することになっていました。
そう言うと、彼女は寂しそうな顔をして、「あなたとずっと一緒にいたい」と言うのです。
無条件に私を慕い、抱きついている彼女の姿に、私は子供たちの姿を重ね合わせました。
 
 
父というだけで慕ってくれた子供たち。
その愛らしさの故に、私は子供たちの父としての責任を果たそうと思い、家庭を築いてきたのでした。
その大切な家族以外に、今こうして慕ってくれる女性がいる。
それをむげに断って、悲しませてよいのだろうか。
金を払って終わりにしようとした決意は、もろくも崩れ去っていったのです。
 
 
しばらく彼女を抱いてソファーに座っていましたが、私は彼女とずっと一緒にいてあげたくなってきました。
それで彼女に、明日のアユタヤ行きは中止すると告げました。
自分の願いが叶ったことがわかると、彼女は喜んで、いっそう私に甘えてくるのでした。
せめて旅行の間くらい。そのときはまだ、それだけで終わらせる気持ちでいたのでございます。