初老の男性は、自分のしてきたことや思いを、約30分ほど私に語って聞かせました。
そして最後に、こう私に話をしたのです。
「いやあ、長々と話し込んじゃってすみません。でもね、今は妻に本当に感謝しているんですよ。一緒に暮らしているときは、さっさとくたばっちまえくらいに思うこともあった妻ですが、妻のお陰で今の私があるのだと思えるようになりました。これもお大師様のお導きだと思っているんです。」
 
 
夕暮れが近づいておりました。私もそろそろ出発しなければなりません。
その男性に別れを告げ、私は第5番の地蔵寺へ向けて歩き始めました。
約2kmの道のりの中で、私は元妻のことを考えておりました。
私が騙して離婚してしまった元妻です。
 
 
彼女には、本当は何の落ち度もなかったのかもしれません。
でも、私は自由になりたかった。
いや、ただ単に愛人と一緒に暮らしたかった。
そのために元妻を悪者にして、私自身を正当化したのかもしれません。
 
 
そうは考えてみるものの、道を引き返すつもりはありません。
目的地は、もうすぐ目の前にあるのです。
ほとぼりが冷めたら、私はバンコクへ旅立つつもりでいるのですから。
 
 
その日の夜、家に戻ってから私はゴイさんへ電話をかけました。
いつも決まった時間ではありませんが、だいたい毎日のように電話をしていたのです。
ところがその日の彼女は、いつもと様子が違っていました。
言葉に気持ちが乗ってこないのです。
 
 
そして最後に、今ちょっと大事な用事があるからと、一方的に電話を切られてしまったのです。
私は、心の中に何か物足りなさを感じていました。
お遍路のことを説明するのは大変ですが、お寺を5つ回ってきたという話は彼女でも理解できます。
仏教への信心が深いタイ人ですから、この話は乗ってくるだろうと思っていたのです。
 
 
それが、なんとも拍子抜けに終わってしまいました。
そして空虚になった私の心を、怒りにも似た気持ちが埋め始めたのです。
私が買ってやった一軒家に、今、彼女は暮らしているのです。
私以上に大事なことが、他にあるでしょうか。
 
 
その私を差し置いて、大事な用事があるからと電話を切るなんて。
仮に百歩譲って急用があったとしても、もうちょっと言い方というものがあるのではないか。
私は彼女の対応を考えながら、だんだんと腹立たしさを募らせていったのでございます。