それから数ヶ月が過ぎました。いよいよタイ移住計画を実施すべきときが来たのです。
すでに移住に必要なリタイヤメントビザを取得しました。
ゴイさんと結婚して、O(オー)ビザを取得してもよいと思ったのですが、まずはリタイヤメントビザで行くことにしたのです。
やはり、どこかで元妻にバレることを怖れていたからです。
 
 
元妻へは、四国で約1年暮らしたけど、旅行で行ったタイが気に入ったので、タイで暮らすことにしたと手紙を出しました。
タイは気候が温暖で、年寄りにはちょうど良いと、もっともらしい理由を添えることも忘れません。
実際、何度かタイに行って感じたのは、年中暖かくて、日中の日差しさえ避ければ、けっこう暮らしやすいということです。
 
 
元妻へは、ゴイさんに会いに行った旅行の一部を、タイに観光旅行へ行ったと話してありました。
唐突にタイでは怪しまれると思ったので、数回の旅行をした結果、移住を決めたことにしたかったのです。
そのために必要な四国での1年間だったのです。
私の行動を詳細に知られることなく、それでいてタイに何度か行って気に入ったことにするために、私は腐心してきたのです。
 
 
元妻は、特に何も言ってきませんでした。
今まで四国の田舎で暮らしていたのが、今度はタイの田舎に行くのだろうくらいにしか思っていないのでしょう。
本当はバンコクで暮らすのですから、けっこう都会なのです。
とは言え、家が建っているのは郊外ですから、蚊やハエといった虫も多くいます。
 
 
万端の準備は、すべてこの日のためにありました。
四国の貸家を引き払い、家財道具を処分しました。
必要なものは、すでにEMSでバンコクへ送ってあります。
私は、ほとんど身ひとつで旅立つのです。
 
 
四国から東京へ行き、親しい数人の友人と会ってタイへの門出を祝ってもらいました。
次の日、私はバンコク行きの飛行機に乗りました。
私の3年越しの夢が実現しようとしています。
あの社員旅行での過ちが、私の人生を変えてしまったのです。
 
 
数時間の後に、飛行機はバンコクのスワンナプーム空港に着陸しました。
そしていつものように出迎えてくれるゴイさんを、私は人ごみの中に探したのです。
しかし、いくら探してもゴイさんは見つかりません。
私がバンコクに到着することや時刻は、すでに電話で伝えてありました。
遅刻でもしたのでしょうか。私は、携帯電話の電源を入れて、彼女に電話をしてみることにしたのでございます。