電話の呼び出し音が鳴っていますが、ゴイさんは電話を取りません。
どうしたのでしょうか。私は少し不安になってきました。
一度切って、もう一度かけ直してみました。
すると今度は、電波が届かないというようなメッセージが聞こえてきました。
 
 
バクバクする心臓音が聞こえそうなほど、私はあせってきました。
何か嫌な予感が頭をよぎりましたが、私はその可能性を否定しました。
ともかく、家に行ってみるしかない。
私はそう決めて、一人でタクシーに乗って私の家へと向かったのです。
 
 
タクシーの中でも、私はときおりゴイさんへ電話をかけました。
でも、相変わらず同じメッセージが聞こえてくるだけです。
そうこうするうちに、タクシーは私の家へ到着しました。
 
 
料金を支払ってタクシーを降りたとき、私は目を疑いました。
ゴイさんが、何事もなかったかのように庭で洗濯物を干していたからです。
その近くでは彼女のお兄さんが、車を洗っていました。
 
 
ひょっとしたら、単に携帯電話が故障しただけ?
いやしかし、私が来るとわかっていて、空港に迎えに来ないのはおかしい。
もしかしたら、私が来る日を間違えているとか。
一瞬のうちに、あらゆる可能性が頭の中を駆け巡りました。
 
 
歩いて彼女に近づき、私は声をかけました。
すると喜んで迎えてくれていた彼女が下をうつむき、さっとお兄さんの影に隠れたのです。
訳がわからなくなって、私はお兄さんを見つめました。
すると普段は無口な彼がその口を開いて、驚くべきことを話し始めたのです。
 
 
「彼女は私の恋人だ。もうあなたの恋人じゃない。」
「???...えっ、いったいどういうこと。あなたはお兄さんでしょ?」
「違う。私と彼女は恋人同士だ。ここはもう、あなたが来るところじゃない。」
「何を言っているの?彼女は私の恋人だし、ここは私の家ですよ。」
「ここは彼女の家だ。あなたの家じゃない。彼女は、あなたとは別れると言っている。だからもう、あなたは帰りなさい。」
 
 
何がどうなったのか、しばらくはさっぱりわかりませんでした。
しかし、バカな私にも、やっと状況が飲み込めてきました。
私は、ずっと騙されていたのです。
お兄さんと紹介されていましたが、最初からウソだったのです。
 
 
私がいない間に、彼はゴイさんと付き合うようになったのでしょう。
それをお兄さんだと言って、私を騙し続けていたのです。
それに、この家の名義はゴイさんです。私じゃありません。
タイでは、外国人が一戸建てを所有することを認めていないのです。
 
 
しかもまずいことに、家のローンは私の名義です。
私は、家を取られた挙句にローンを払い続けなければならないのです。
夢の実現を目前にして、私は奈落の底に突き落とされたのでございます。