すがるような思いで、私はゴイさんを見つめました。
「本当なのか?本当なのか?」
彼女の口から真実を聞かされるまで、納得できることではありません。
しばらく彼女はうつむいていましたが、小さな声で「本当」と答えたのです。
 
 
「なぜ?どうしてこんなことに?私の何がダメだと言うの?」
「あなたは奥さんと別れてからも、ずっと来てくれなかった。私はすぐにでもあなたと暮らしたかったのに。ごめんなさい。」
「もし、私のことを愛しているのなら、もう一回チャンスをくれないか?これじゃあひどすぎるよ。」
「ごめんなさい。もう無理。」
 
 
60歳も過ぎて、なんという醜態でしょうか。
他人が見ているかもしれない屋外で、私は今にも泣きそうになってわめいていたのです。
しかし、どんなに言葉を並べようとも、事態はどうにもなりそうもありません。
ひとまずはどこかで落ち着かなければならないと、少し冷静さを取り戻してきました。
 
 
さすがにこの家に泊まることは認めてくれませんでした。
私は、また来るからと言い残して、タクシーを拾える大通りまで歩いたのです。
どうしたら良いのか、皆目見当もつきません。
ともかく、今晩寝られるところを見つけないと。
そう思って、以前来ていたときに泊まったホテルへと向かったのです。
 
 
幸い、ホテルには部屋の空きがありました。
しかし、日本から予約していたときより、かなり高い値段です。
贅沢を言える場合ではないので、私はそれを了承してチェックインを済ませました。
部屋に入り、ベッドに横たわると、それまでの出来事を反芻するかのように、何度も何度も頭の中で繰り返したのです。
 
 
冷静になっているつもりでしたが、思い出せば答えは彼女への恨み言になります。
あるいは、あのお兄さんと言っていた奴にたぶらかされているのではと、彼女を擁護することも考えました。
しかし、最終的にそれを認めたのはゴイさんです。
 
 
私の何が悪かったのでしょうか。今度は、私自身を反省してみます。
完全犯罪など狙わずに、すぐにタイへ来た方が良かったのではないか。
元妻を騙したバチが当たったに違いない。
いずれにしても今更どうしようもないことを、エンドレスに考えたのでございます。